北鎌フランス語講座 - 文法編「助動詞」
助動詞
助動詞
フランス語で純粋に「助動詞」といえるのは、être と avoir の 2 つだけです。
それ以外の vouloir, pouvoir, devoir は「準助動詞」と言って区別することができます。
一番の違いは、次の点です。
大雑把に言うと、être は英語の be 動詞、avoir は英語の have に相当するので、単純化すると左の図 I のような対応関係になります。
英語 | フランス語 |
---|---|
be+p.p. 受動態 | être+p.p. 受動態 |
have+p.p. 現在完了 | avoir+p.p. 複合過去 |
図 II
英語 | フランス語 |
---|---|
be+p.p. 受動態 | être+p.p. 受動態 |
have+p.p. 現在完了 | être+p.p. 複合過去 |
avoir+p.p. 複合過去 |
しかし、図 I は正確ではありません。
実際には、少し対応関係がずれており、être + p.p. の一部は英語の have+p.p. に対応しています(図 II の赤字部分)。
そのため、正確には右の図 II のような対応関係になっています。
être+p.p.でありながら複合過去
上の図 II の赤字部分のように、être + p.p. で受動態ではなく複合過去になるのは、
1. 場所の移動・状態の変化を表す自動詞の場合
2. 再帰代名詞と一緒に使う場合
の 2 つの場合です。
「場所の移動・状態の変化」を表す自動詞の場合は、être + p.p. で複合過去になります。
以下のような動詞を、場所の移動・状態の変化を表す自動詞と呼びます。これ以外にはあまりありません。
辞書でこれらの動詞を引くと、「助動詞は être」などと記載されています。
- aller(行く), venir(来る), arriver(到着する), partir(出発する), entrer(入る), sortir(出る), monter(上がる), descendre(下がる), tomber(落ちる), parvenir(到達する), rester(留まる), devenir(~になる), apparaître(現れる), naître(生まれる), mourir(死ぬ)
「場所の移動」の場合:
「est」は助動詞 être の現在(3人称単数)、「allé」は自動詞 aller(行く)の過去分詞なので、「être+p.p.」となっています。 aller は「場所の移動を表す自動詞」なので、「être + p.p.」で受動態ではなく複合過去になります。
「à」は「~に」という意味の前置詞〔英語の to または in, at〕。「école」は「学校」。女性名詞なので、定冠詞は「la」がつきますが、母音で始まるため「l'」となっています。
文の要素に分けると、「Il」が主語(S)、「est allé」が動詞(V)、「à l'école」は「状況補語」で、S + V の第 1 文型です。
「状態の変化」の場合:
Je suis né à Tokyo. (私は東京で生まれた)
「suis」は助動詞 être の現在(1人称単数)、「né」は自動詞 naître(生まれる)の過去分詞なので、「être+p.p.」となっています。ただし、naître は「状態の変化を表す自動詞」なので、「être + p.p.」で受動態ではなく複合過去になります。
文の要素に分けると、「Je」が主語(S)、「suis né」が動詞(V)、「à Tokyo」は「状況補語」で、S + V の第 1 文型です。
英語だと、
I was born in Tokyo.
というように、他動詞の受動態(過去形)で表現しますが、フランス語の場合は能動態(複合過去)で表現するわけです。
2. 再帰代名詞と一緒に使う場合
再帰代名詞と一緒に使う場合は、être + p.p. で複合過去になります。
この項目は、再帰代名詞のページを見てから、また戻って読んでも構いません。
「est」は助動詞 être の現在(3人称単数)、「caché」は他動詞 cacher(隠す)の過去分詞なので、「être+p.p.」となっています。再帰代名詞「s'」(もとの形は「se」。「自分」の意味)がついているため、「être + p.p.」で受動態ではなく複合過去になります。
「derrière」は前置詞「~の後ろに」。「arbre」は「木」。
文の要素に分けると、「Il」が主語(S)、「s'」が直接目的(OD)、「est caché」が動詞(V)、「derrière un arbre(木の後ろに)」は状況補語。S + V + OD の第 3 文型です。逐語訳すると、「彼は自分を木の後ろに隠した」。つまり「彼は木の後ろに隠れた」となります。
受動態の主語
もとの文(能動態)における直接目的語しか、受動態の主語にはなれません。
例えば、第5文型の例で挙げた、
Je donne ce livre à Pierre. (私はこの本をピエールに与える)
は S + V + OD + OI です。「ce livre」が直接目的語(OD)であるため、受動態にする場合は必ず「ce livre」を主語にします。
受動態の「être + p.p.」にするには、「donner」の過去分詞が「donné」なので、
Ce livre est donné à Pierre. (この本はピエールに与えられる)
となります。これを、間接目的である Pierre を主語にして
× Pierre est donné ce livre.
などと言うことはできません。英語だと、間接目的を受動態の主語にして、
Pierre is given this book.
のように言うことも可能です。このあたりにも、直接目的と間接目的を厳密に区別しようとするフランス語の姿勢が感じられます。
受動態の複合過去
複合過去「avoir + p.p.」(~した)と受動態「être + p.p.」(~される)が組み合わさると、「avoir été + p.p.」(~された)という形になります(英語の「have been + p.p.」に相当)。
複合過去 | avoir | p.p. | |
受動態 | être | p.p. | |
受動態の複合過去 | avoir | été | p.p. |
(英語) | have | been | p.p. |
「受動態の複合過去」に含まれる「été」は être の過去分詞(p.p.)ですが、これは複合過去の「avoir + p.p.」の p.p. と、受動態を表す「être + p.p.」の être が組み合わさった結果です。
例文:
Cette église a été construite au XIIIe siècle. (この教会は13世紀に建築された)「Cette」は「この」を意味する ce の女性形で、これは後ろの女性名詞「église(教会)」に合わせた結果です。
「a」は助動詞 avoir の現在(3人称単数)。
「construite」は他動詞 construire (建築する)の過去分詞 construit (conduire と同じ活用をする動詞です)に、「過去分詞の性数の一致」による「e」がついた形です(「église」が女性単数なのに合わせて「e」がついています)。
「au」は「à」と「le」の縮約形。「XIII」とその右上の「e」で「13番目の」。「siècle(世紀)」は男性名詞。
受動態以外の受身表現
受動態を使わずに、「不定代名詞 on」または「再帰代名詞」を使っても、受身のような意味を表現できる場合があります。
つまり、受動態はこの 2 つの表現を使って書き換えられる場合があります。
1. 不定代名詞 on を使う
上の「受動態の複合過去」で取り上げた例文は、受動態(être + p.p.)を使わずに、次のように不定代名詞 on を使って表現することもできます。
On a construit cette église au XIIIe siècle.この例文については、「不定代名詞 on」の項目で、まったく同じ例文を出していますので、説明はそちらに譲ります。
2. 再帰代名詞を使う
この項目は、再帰代名詞のページを見てから、また戻って読んでも構いません。
まず、受動態を使った例文を挙げます。
Ce livre est composé de six chapitres.
「Ce」は「この」。「livre」は「本」。「est」は助動詞 être の現在形(3人称単数)。「composé」は「composer(構成する)」の過去分詞(p.p.)。「être + p.p.」で受動態になっています。
「six」は「6つ(の)」。「chapitres」は「chapitre(章)」の複数形。
もともと「composer」という動詞は、「composer A de B(A を B で構成する)」という使い方をします(第5文型を作る動詞です)。これを受動態にすると、直接目的の「A」が主語になり、「A est composé de B(A は B で構成される)」となります。この例文では、「Ce livre」が「A」、「six chapitres」が「B」に相当します。全体で、「この本は 6 つの章で構成される」となります。
この文は、再帰代名詞を使って、次のように言うこともできます。
Ce livre se compose de six chapitres.
再帰代名詞の「se」は、簡単に言うと「自分」「自ら」と訳せます。
さきほどの「composer A de B」は、再帰代名詞を使うと、「A」が再帰代名詞「se」に変わり、「se composer de ~(自らを~で構成する)」となります。
逐語訳すると、「この本は自らを 6 つの章で構成する」、つまり「この本は 6 つの章で構成される」と同じ意味になります。
過去分詞の性数の一致(avoir + p.p. の場合)
avoir + p.p. の場合は、直接目的(OD)が動詞よりも前にくる場合のみ、OD に性数を一致します。
例えば、次の文をベースに考えてみます。
J'ai acheté des livres. (私は数冊の本を買った)
「ai」は助動詞 avoir の現在(1人称単数)。「acheté」は他動詞「acheter(買う)」の過去分詞(p.p.)。「avoir + p.p.」で複合過去です。「des」は不定冠詞の複数で「いくつかの」。「livre(本)」は男性名詞で、複数形で「livres」になっています。
文の要素で分けると、「J'」が主語(S)、「ai acheté」が動詞(V)、「des livres」が直接目的(OD)です。普通の第3文型です。
さて、上の「des livres」を英語の it のように「それ」と置き換えてみましょう。英語の「it」は、フランス語では人称代名詞の 3 人称で表現します。男性複数の場合は「les」となります。
人称代名詞の直接目的・間接目的は、動詞の前に置きますので、「ai acheté」の前に移動します。
このとき、「OD が動詞よりも前」にくると、OD に性数を一致し、
Je les ai achetés.
というように、男性複数の「les」に合わせて、過去分詞「acheté」に男性複数の「s」がつきます。
過去分詞は形容詞と同様に変化します(男性複数は「s」、女性単数は「e」、女性複数は「es」がつきます)。
こうした「人称代名詞の直接目的・間接目的」の場合だけでなく、「関係代名詞 que」を使った場合も、直接目的(OD)が動詞よりも前にきます。先行詞= OD の場合に「関係代名詞 que」を使うからです(詳しくは関係代名詞のページで説明します)。例えば
des livres que j'ai achetés (私が買った本)
の場合、先行詞の「des livres」が「ai acheté」の OD となっているため、男性複数の「des livres」に合わせて、過去分詞「acheté」に男性複数の「s」がついています。
過去分詞が形容詞と同じように一致するのは、過去分詞が形容詞のようにイメージされているからだといえます。
この例では、
des livres achetés (買った本)
のようにイメージされていると言えるでしょう。
過去分詞の性数の一致(être + p.p. の場合)
1. 受動態の場合
Elle est respectée de tous. (彼女は皆から尊敬されている)
「respecté」は他動詞「respecter(尊敬する)」の過去分詞。「est respecté」は「être + p.p.」で受動態。主語の「Elle」が女性単数なので、過去分詞に「e」がついています。
受動態では、「~によって」という前置詞は普通は「par ~」(英語の「by ~」に相当)を使いますが、動詞によっては(「状態」を表す意味の場合)「par ~」よりも「de ~」が使われます。「皆によって」というよりも「皆から」というニュアンスです。
「tous」は不定代名詞で「すべての人、皆」という意味。
もし、男性単数が主語であれば、
Il est respecté de tous. (彼は皆から尊敬されている)
となり、「e」はつきません。
2. 場所の移動・状態の変化を表す自動詞の場合
さきほど挙げた例文、
Il est allé à l'école.(彼は学校に行った)
をもとに、主語を女性複数に変えると次のようになります。
Elles sont allées à l'école. (彼女達は学校に行った)
主語が女性複数なので、過去分詞に「es」がつきます。
3. 再帰代名詞と一緒に使う場合(再帰代名詞が OD の場合のみ)
この項目は、再帰代名詞のページを見てから、また戻って読んでも構いません。
再帰代名詞と一緒に使うと、「être + p.p.」で受動態ではなく複合過去になります。
さきほど挙げた例文、
をもとに、主語を女性に変えると次のようになります。
Elle s'est cachée derrière un arbre. (彼女は木の後ろに隠れた)
主語が女性単数なので、過去分詞に「e」がつきます。
ただし、このように再帰代名詞と一緒に使った「être + p.p.」の過去分詞が主語に一致するのは、再帰代名詞(se)が直接目的(OD)の場合だけです。
この例文では、「Elle」が主語(S)、「est cachée」が動詞(V)、「s'」が直接目的(OD)です。再帰代名詞=直接目的なので一致が行われますが、再帰代名詞(se)が間接目的だと一致は行われません。
例えば次の例文を見てください。
Elle s'est caché la figure. (彼女は自分の顔を隠した)
「figure」は、ここでは「顔」の意味の女性名詞です。
文の要素で分けると、「Elle」が主語(S)、「est cachée」が動詞(V)、「la figure」が直接目的(OD)です。直接目的が 2 つということは(並列の場合を除いて)ありえないため、消去法で、「s'」は間接目的(OI)となります。体の一部を表す名詞と一緒に用いる間接目的は、「~に」ではなく「~の」と訳すため、「s'」は「自分の」と訳します。
「s'」が間接目的なので、「caché」には「e」がつきません。
準助動詞
pouvoir, vouloir, devoir は、いわゆる「準助動詞」です。
後ろに不定詞がくるという点で、本来の助動詞(être と avoir)とは区別されます。
例文をひとつ挙げると、
Il veut vendre sa voiture. (彼は彼の車を売りたがっている)
「veut」は vouloir の現在(3人称単数)。これが「準助動詞」です。
「vendre(売る)」は他動詞の不定形。これを「本動詞」と呼びます。
英語の will に相当する言葉は、フランス語にはありません。未来・意志は、フランス語では単純未来によって(語尾を変化させて)表現します。
なお、英語の「動詞の原形」のことを、フランス語の文法用語では
「不定詞」
「不定形」
「不定法」
と呼びますが、どれも同じ意味(フランス語の「infinitif」の訳)で、略号は
「inf.」
です。
近接未来・近接過去
1. 近接未来は aller + inf. で、「~しようとしている」の意味。
2. 近接過去は venir de + inf. で、「~したばかりだ」の意味。
どちらも、後ろに不定詞が来るという点で、「準助動詞」と同様に捉えることができます。
例えば、
Je viens juste de ~. (私はちょうど~したばかりだ)
などと使います。「juste」は副詞で「ちょうど」。この位置に入るのが普通です。
ただし、もともと aller は自動詞「行く」で、venir は自動詞「来る」なので、
4. venir + inf. で「~しに来る」
という意味にもなります。 1. と 3. はまったく同じ形になりますので、どちらの意味になるかは文脈次第です。
2. は 4. とは違って de が入るため、区別できます。
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