遊離と倒置
遊離・倒置
遊離
文の一要素(主語、直接目的、間接目的など)が文頭または文末に飛び出た形のことを「遊離」または「遊離構文」といいます。
- 「遊離」の代わりに「転位」という言い方をすることもあります。
通常はコンマを打ち、必ず文の中で代名詞で受け直します。
くだけた会話でも、硬い文章でも使用します。
たとえば、普通の語順だと次のように言います。
- J'ai vu ce film. (私はその映画を見た〔ことがある〕)
「ai」は助動詞 avoir の現在1人称単数。「vu」は voir(見る)の過去分詞。avoir + p.p. で複合過去になっており、「~した」という単なる過去〔または「~したことがある」という経験〕を表します。「ce」は「その」。「film」は男性名詞で「映画」。
文の要素に分けると、「J'」が主語(S)、「ai vu」が動詞(V)、「ce film」が直接目的(OD)の第3文型です。
この文は、以下のように言うこともできます。
Ce film, je l'ai vu . (その映画、それ見た〔ことがある〕よ)
「Ce film」が文頭に「遊離」して、これを人称代名詞「l'」で受け直しています。
これを次のように言うことはできません。
× Ce film, j'ai vu.
会話であれ、上のように代名詞で受け直す必要があります。逆に、
Je l'ai vu, ce film. (それ見た〔ことがある〕よ、その映画)
のように、文末に「遊離」させることもできます。
この場合、代名詞(l')のほうが具体的な名詞(ce film)よりも先に出てくることになります。
これも、次のように言うことはできません。
× J'ai vu, ce film.
必ず、上のようにメインとなる文の中で代名詞で受け、「遊離」した部分を除いても完全な文になるように(直接目的が足りない、といったことにならないように)します。
倒置
主語と動詞が逆に(つまり主語が後ろに)なることを倒置と言います。
それ以外の文の要素が逆の順序になることも「倒置」と呼ぶことがありますが、ここでは除外し、主語と動詞が逆になるケースだけを取り上げます。
また、疑問文では倒置になりますが、これもここでは除外します。
英語よりもフランス語のほうが文法体系がしっかりしているため、倒置にしても意味が取りにくくなることは少ないといえます。
そのため、恐らく英語よりもフランス語のほうが倒置が多用されるといえるでしょう。
倒置になるには、以下のようないくつかの要因が考えられます。
関係代名詞や接続詞(que など)の後ろでは、潜在的に倒置になりやすいといえます。これに次の 2. などの要因が重なると、倒置になる確率が高くなります。
動詞に比べて主語が長い場合は、倒置になりやすいといえます。
「頭でっかち」になるのを避けるためです。
倒置以外にも、次のような方法で、主語を短くすることができます。
- 「後出の名詞を指す仮主語の il」を使う
- 関係代名詞が含まれているために主語が長くなっている場合は、先行詞と関係詞節を切り離し、関係詞節だけを後ろに置くことで、主語を短くする場合があります。 ⇒ 例文(諺)
通常は文末に来るべき状況補語などの文の要素が文頭に来た場合、それに釣られるようにして動詞も前に来て、倒置になることがあります(特に自動詞)。例えば、
- La Seine coule sous le pont Mirabeau.
(ミラボー橋の下をセーヌ川が流れる)
「Seine」は「セーヌ川」で女性名詞、「coule」は自動詞「couler (流れる)」の現在(3人称単数)、「sous ~(~の下で)」は前置詞、「pont (橋)」は男性名詞。「Mirabeau」はフランス革命で活躍したミラボー伯爵のことで、そこから名づけられた橋の名前。
文の要素に分けると、「La Seine」が主語(S)、「coule」が動詞(V)の第1文型で、「sous le pont Mirabeau」は状況補語になります。
この「sous le pont Mirabeau」を文頭に持ってくると、
- Sous le pont Mirabeau la Seine coule.
と言うこともできますが、状況補語が文頭にくると、動詞も前に出やすくなり、
- Sous le pont Mirabeau coule la Seine.
と、倒置になりやすくなるわけです。
この場合、「la Seine」という名詞で終わっており、下記「5.」の体言止めの効果も出ています。
ちなみにこれは、二十世紀初頭に活躍した詩人ギヨーム・アポリネールの詩の一節で、シャンソンで有名になったのでご存知の方も多いかと思います。
4. 文頭に特定の副詞がきた場合
文頭にある種の副詞(または副詞相当の語句)がくると、その後ろで倒置しやすくなります。
具体的には、次のような副詞です。
Peut-être (おそらく)
Sans doute (おそらく)
Aussi (それゆえ)
これらの言葉を辞書で引くと、個別に「倒置しやすい」と記載されているはずです。
特に論説文などの硬い文章で、たくさん出てきます。
硬い文章などで、わざと名詞で文を終止させる(体言止めにする)ために倒置にすることがあります。名詞で終わることで、より引き締まった文になります。
「...と彼は言った」などの地の文を引用文中に挟む場合は、前後にコンマを打って倒置にします。小説を読めば、たくさん出てきます。
例えば、一番普通の言い方では、次のようにコロンを打った後で、ギユメと呼ばれる « » という記号の中に人の言葉を引用します。
Il dit : « ... » (彼は言う、「 ... 」)
「dit」は dire (言う)の現在(3人称単数)。
これは、文中に埋め込んで、次のように言うこともできます。
« ... , dit-il, ... »
このように、倒置にするとき、主語が代名詞である場合は、ハイフンを入れます。
これを複合過去にすると、次のようになります。
Il a dit : « ... » (彼は言った、「 ... 」)
「a」は助動詞 avoir の現在(3人称単数)。この文の「dit」は dire (言う)の過去分詞。dire という不規則動詞は、「現在3人称単数」と「過去分詞」がまったく同じ形になりますので注意してください。ここでは avoir + p.p. で複合過去になっています。
これは次のように言うこともできます。
« ... , a-t-il dit, ... »
この「-t-」は、倒置にしたときに「動詞の3人称単数の語尾が e か a で終わり、次に代名詞 il, elle, on がくる時は、動詞と代名詞の間に -t- を入れる」という規則によるもので、発音しやすくするためのものなので t 自体に意味はありません。
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