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北鎌フランス語講座 - 文法編「直説法の8時制」

直説法の8時制

8時制の形

  • avoir + p.p. で複合時制を作る動詞の場合

複合時制」とは、複合過去のように、2 語で 1 つの時制を形作る時制のことです。ほとんどの動詞は avoir + p.p. で作ります。
例えば「donner(与える)」という動詞は、3人称単数の場合、次のように変化します。

単純時制複合時制
(1)現在il donne(2)複合過去il a donné
(3)半過去il donnait(4)大過去il avait donné
(5)単純過去il donna(6)前過去il eut donné
(7)単純未来il donnera(8)前未来il aura donné

右側の複合時制( 2、4、6、8 )の 2 語のうち、後半はいずれも「donné」です。ということは、実質、変化しているのは表の赤字で示した前半部分(a, avait, eut, aura)だけです。
しかも、この前半部分は、avoir の単純時制( 1、3、5、7 )の形と同じです。
ということは、「8時制」といっても、実際は4つ覚えれば済むことになります。

各時制の形(作り方)については、「動詞の活用編」を参照してください。

  • être + p.p. で複合時制を作る動詞の場合

「複合過去」をはじめとする「複合時制」を作るときに、「場所の移動・状態の変化を表す自動詞」の場合、および再帰代名詞と一緒に使う場合は、助動詞に avoir ではなく être を使います。
例えば「partir(出発する)」という動詞は、3人称単数の場合、次のように変化します。

単純時制複合時制
(1)現在il part(2)複合過去il est parti
(3)半過去il partait(4)大過去il était parti
(5)単純過去il partit(6)前過去il fut parti
(7)単純未来il partira(8)前未来il sera parti

この場合も、複合時制( 2、4、6、8 )の 2 語のうち、後半はいずれも「parti」です。ということは、実質、変化しているのは表の赤字で示した前半部分(est, était, fut, sera)だけです。
しかも、この前半部分は、être の単純時制( 1、3、5、7 )の形と同じです。
ですから、やはり形の上では、4つ覚えれば済むことになります。

1. 現在

原則として、
  「~する
  「~している
と訳します。

英語の「現在進行形」に相当する時制は、フランス語には存在しません。ですから、この「現在」(1)が英語の「現在進行形」の意味も兼ねることになります。

ちなみに、「être en train de + inf.」で「~している最中だ」という熟語がありますが、これは単なる熟語で、動詞による「時制」ではありません。

主な不規則動詞の直説法現在は、こちらに記載しています。

2. 複合過去

フランス語には、(2)~(6)まで、5 種類の過去がありますが、このうち最もよく使う、最も一般的な過去が「複合過去」です。

原則として、
  「~した
  ~したことがある」(経験)
と訳します。

「期間」を表す言葉(副詞「toujours(つねに)」「longtemps(長い間)」など)と一緒に使う場合は、
  「~してきた
と訳すとうまくいきます。

複合過去は「avoir + p.p.」で作りますから、形の上では英語の現在完了(have + p.p.)に似ていますが、意味的にも、だいたい英語の現在完了に相当します。
もう少し詳しく言うと、英語の現在完了は、完了・結果・経験・継続の 4 つの意味がありますが、このうち「継続」はフランス語では現在形を使うため、複合過去はそれ以外の「完了・結果・経験」の 3 つに対応します。

同時に、複合過去は、あとで出てくる単純過去(5)の代わりとしても使われるため、英語の過去形にも対応しています。

3. 半過去

原則として、
  「~していた
  「~であった
  「~したものだった」(過去の習慣)
と訳します。
1 回きりで終わる動作ではなく、過去の情景描写・状況説明で使います。

例えば、
「昔々、ある所に、お爺さんとお婆さんが住んでいました。」
というのは、過去の状況説明・情景描写なので、半過去を使います。

「お爺さんは山へ柴刈りに、お婆さんは川へ洗濯に行く毎日でした。」
これは過去の習慣なので、やはり半過去を使います。

「お爺さんが山で柴刈りをしていると、一本の光る竹を見つけました。 」
これは、1 回きりで終わる動作なので、複合過去(1)または単純過去(5)を使います。

また、時制の一致で、「過去における現在」でも半過去を使います。

半過去の作り方は、こちらに記載しています。

4. 大過去

原則として、
  「(すでに)~していた
  「~してしまっていた
と訳します。

英語の過去完了に相当します。
例えば、

  Je l'avais complètement oublié. (私はすっかりそのことを忘れていたよ)

「l'」は母音の前に置く時の形で、「le」と同じ。いわゆる中性代名詞で、前の文脈全体を指し、「そのことを」となります。「avais」は avoir の半過去(1人称単数)。「oublié」は他動詞 oublier (忘れる)の過去分詞。半過去 + p.p. で大過去です。「complètement(完全に、すっかり)」は副詞。複合時制では、多くの場合、副詞はこのように助動詞と本動詞の間に置きます。
さて、大過去は「過去完了」つまり「過去にすでに完了している」ことを示すので、「忘れていた」状態は過去にすでに終わっており、今は思い出しているわけです。「しまった、大事なことを忘れていたのを思い出した」という場合に、日常会話でもよく使います。
これに対し、複合過去を使うと、

  Je l'ai complètement oublié. (私はすっかりそのことを忘れてしまった)

これは「ai」が avoir の現在(1人称単数)なので、現在 + p.p. で複合過去です。
複合過去は「現在完了」なので、今現在、完全に忘れてしまった状態にあり、今は何も覚えていないことになります。

なお、時制の一致で、「過去における過去」で大過去を使う場合もあります。

5. 単純過去

原則として、
  「~した
と訳します。

「単純過去」とは、「現在の状態とは関係のない、一回きりの過去」です。
複合過去と比較してみましょう。

複合過去(2)を使うと、「過去の出来事の結果、今はこうなっている」という現在の状態も暗示します。例えば、

  Il a ouvert la porte. (彼は戸を開けた)

は、助動詞 avoir の現在形の「a」と、他動詞 ouvrir(開ける)の過去分詞「ouvert」による複合過去です。
  「彼は戸を開けた。その結果、今も戸が開いている
というニュアンスです。

それに対して、「ouvrir(開ける)」の単純過去(3人称単数)「ouvrit」を使って、

  Il ouvrit la porte. (彼は戸を開けた)

と言うと、
  「彼は戸を開けた。ただ、その結果として今も戸が開いているかどうかはわからない」
ことになります。今の状態とは無関係に、単純に過去の出来事を述べているだけです。これが単純過去です。

あるいは、
  単純過去は(今の状態とは関係ないので)客観的
  複合過去は(今の状態と関係があるので)主観的
に物事を述べる時に使われる、ともいえます。
単純過去を使うと、ある特定の日時に起きた、取り消せない客観的事実という印象を与えます。

しかし現在では、硬い文章を除き、単純過去はあまり使われなくなっています
単純過去は活用が面倒だし、それほど厳密に単純過去と複合過去を使い分けなくても、困ることは少ないからでしょう。
多くの場合、単純過去は複合過去で代用されます。
そのため、上のような「結果として今の状態はどうなっているか」という視点による単純過去と複合過去の区別は、曖昧になっています。

単純過去の作り方は、こちらに記載しています。

6. 前過去

多くの場合、前過去は単純過去とセットで使用し、単純過去の直前に完了した行為を表します。

原則として、
  「~するやいなや」
と訳します。
  Dès que... (...するやいなや)
などの接続詞の後ろで出てきます。

単純過去があまり使われなくなっている以上、前過去も目にする機会は少ないと思います(小説を読めば、たくさん出てきます)。  ⇒ 例文(聖書)

7. 単純未来

文法用語は「単純未来」ですが、単なる「未来」です。

英語には未来を表すのに「will」という便利な言葉がありますが、フランス語には英語の「will」に相当する言葉がないため、動詞を変化させるしかありません。
単純未来の作り方は、こちらに記載しています。

原則として、
  「~だろう」(未来、推測)(主語は 3 人称)
  「~つもりだ」(意志)(主語は 1 人称)
と訳します。

ただし、むしろ「だろう」をつけないで訳したほうがうまくいく場合もあります。

その他、命令の意味になることもあります(主語が 2 人称の場合)。

8. 前未来

未来のある時までには終えていることを表します。英語の未来完了と同じです。

原則として、
  「~しているだろう
と訳します。

  ⇒ 例文(聖書)

時制の一致

英語と同様、フランス語でも「時制の一致」をします。
典型的には、次のような動詞の後ろで一致をします。

dire(言う [英語 say] )
parler(話す [英語 tell] )
croire(思う [英語 think] )
penser(考える [英語 think] )

savoir(知っている [英語 know] )
demander(尋ねる [英語 ask] )
répondre(答える [英語 answer] )

代表的なのは、直接話法を間接話法に直した時に、これらの動詞の直後に接続詞の que(英語の that )を置き、その後ろで時制の一致をします。

時制の一致をすると、時制は次のように変わります。

過去における
 現在直説法半過去
 過去直説法大過去
過去における
 単純未来条件法現在
 前未来条件法過去


1. 過去における現在の例

Il a dit : « Je dois terminer ce travail. »

→ Il a dit qu'il devait terminer ce travail.

「dit」は dire(言う)の過去分詞なので、「a dit(avoir + p.p.)」で複合過去。 « » は日本語の「 」に相当する引用符で、「ギユメ」と言います。「dois」は devoir(~しなければならない)の現在(1人称単数)。他動詞「terminer(終える)」は不定詞。「ce」は「この」。「travail」は「仕事」。上の文は、直訳すると「彼は言った、『私はこの仕事を終えなければならない』」となります。
これを間接話法で言うと、引用符の代わりに「que」を使い、「Il a dit que...」(英語の He said that...)となります。間接話法では、引用符の中の「私」は意味上の人に合わせる必要があります(ここでは「彼」)。「devait」は devoir の直説法半過去で、これが時制の一致による結果です。

2. 過去における過去の例

Il m'a demandé : « Avez-vous terminé ce travail ? »

→ Il m'a demandé si j'avais terminé ce travail.

「demandé」は「demander(尋ねる)」の過去分詞なので、「a demandé(avoir + p.p.)」で複合過去。「Avez-vous」は「vous avez」の倒置でハイフンが入っていますが、これは疑問文の形です。この「Avez」と「terminé」で「avoir + p.p.」なので複合過去。直訳すると「彼は私に尋ねた、『あなたはこの仕事を終えましたか?』」となります。
これを間接話法にすると、「はい」か「いいえ」( Oui か Non)の二者択一の答えを期待する疑問文だった場合は、「...かどうか」という意味の接続詞 si(英語の if )を使います。「avais」は avoir の直説法半過去、「terminé」が過去分詞なので、合わせて直説法大過去となります。これが時制の一致による結果です。「彼は私に、私がこの仕事を終えたかどうか尋ねた」となります。

3. 過去における未来の例

Il a dit : « Je terminerai ce travail ce soir. »

→ Il a dit qu'il terminerait ce travail ce soir.

「terminerai」は「terminer(終える)」の単純未来。「ce soir」は「今夜」。上の文は、直訳すると「彼は言った、『私は今夜この仕事を終えるつもりだ』」となります。
これを間接話法にすると、「過去における単純未来」なので、単純未来「terminerai」は条件法現在の形「terminerait」になります。



以上、英語の時制との対応関係についても言及しましたが、時制に関しては、あまり英語と比較しようとしすぎると、かえって頭が混乱してしまうので、最初のうちは深入りしないことをお勧めします。(結局、英語と比較することで理解しやすくなる場合もあれば、その反対の場合もあります。)













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