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非人称の il

非人称の il

英語の「It rains. (雨が降る)」の it は、意味がありません。このような it のことを、「非人称の it 」と言います。英語の「it」は、フランス語では人称代名詞の 3 人称で表現するため、フランス語では il を使います。
大きく分けて、天候に関する表現の場合と、形式主語(仮主語)の場合があります。

天候に関する表現

  Il pleut. (雨が降る)

この「pleut」は自動詞 pleuvoir の現在(3人称単数)です。

  Il fait beau. (晴れている、天気がいい)

この「fait」は faire の現在(3人称単数)です。「beau」は「美しい」という意味の形容詞。しかし、これは「Il fait beau.」で熟語表現として覚えるしかありません。

その他、非人称の il は時刻の表現でも使用します。曜日や月の表現では使用しません。

de または que 以下を指す仮主語の il

英語の「It is ~ to ~」「It is ~ that...」という構文は、フランス語では、それぞれ次のようになります。

  Il est ~ de
  Il est ~ que...

どちらも「est」の直後には、原則として形容詞を置きます。例えば、

  Il est possible de ~ (~することは可能だ)

これは、英語の「It is possible to ~」に相当します。
de の後ろには不定詞(=動詞の原形のこと)がきます。

文の要素で分けると、「 Il 」が主語(S)、「est」が動詞(V)、「possible (可能な)」が属詞 (C)で、第2文型となります。
ただし、主語(S)の「 Il 」は、それ自体には意味がなく、形式上置いているだけの「仮主語」です。意味上の主語は「de ~」以下の部分ですから、「 Il 」を「 S1 」として「de ~」以下を「 S2 」としてもよいでしょう。

de の代わりに que を使うと次のようになります。

  Il est possible que... (...することは可能だ)

que の後ろには節(=小さな S + V を含むグループのこと)がきます。 Il est possible que の後ろの動詞は、接続法になると決まっています(辞書で「possible」を引くと記載があります)。
これは、「Il est ~ que」の est と que の間にくる形容詞によっては、「接続法の用法」の 1. (4) の規則により、que の後ろの動詞が接続法になるという決まりがあるからです。

Il faut

この Il も、もとは形式主語ですが、よく使われる決まりきった表現です。
「Il faut ~」で「~する必要がある」「~しなければならない」という意味です。
「faut」は falloir の現在(3人称単数)ですが、この動詞は非人称の il とセットでしか(つまり3人称単数でしか)使いません。
「Il faut 」の後ろには、
   不定詞(=動詞の原形のこと)
   「que + 節(=従属節)
のいずれかがきます。que を使う場合は、「接続法の用法」の 1. (3) の規則により、que の後ろの動詞が接続法になります。

「Il faut ~」の il は「彼」ではなく、意味がありません(形式主語です)。
英語だと、
  I must ~.
  You have to ~.
というように、「誰が」~しなければならないのかが明示されますが、「Il faut + 不定詞」を使うと、「誰が」という部分(動作主、つまり動詞の意味上の主語)が曖昧になるので、便利でもあり、不便でもあります。
例えば、

  Il faut aller à l'école. (学校にいく必要がある)

「aller (行く)」は自動詞、「à (~に)」は前置詞、「école (学校)」は女性名詞で、母音で始まるため、前の定冠詞が「l'」となっています。
これだと、「誰が」学校に行かなければならないのかが曖昧で、文脈によって色々な意味になります。
「誰が」を明確にしたい場合は、次の表の右側のように que を使います。
que の後ろは節(=従属節)になるため、主語(S)を言う必要があり、「誰が」という部分が明確化されるからです。

Il faut + 不定詞Il faut que + 節
Il faut aller à l'école.
(学校に行かないと)
(学校に行かなくっちゃ)
Il faut que j'aille à l'école.
(私は学校に行かないといけない)
Il faut que tu ailles à l'école.
(君は学校に行かないといけない)
Il faut qu'il aille à l'école.
(彼は学校に行かないといけない)
Il faut que nous allions à l'école.
(私達は学校に行かないといけない)
Il faut que vous alliez à l'école.
(あなた[達]は学校に行かないといけない)
Il faut qu'ils aillent à l'école.
(彼らは学校に行かないといけない)

表の右側の que の後ろの動詞は、すべて aller の接続法現在です。

あるいは、準助動詞 devoir (~しなければならない)の現在を使って、
    Je dois aller à l'école.
    Tu dois aller à l'école.
    Il doit aller à l'école.
    Nous devons aller à l'école.
    Vous devez aller à l'école.
    Ils doivent aller à l'école.
と言っても、上の表の右側と同じ意味になります。

なお、否定にすると、

  Il ne faut pas ~.

で「~してはならない」という禁止の意味になります。  ⇒ 例文 1  ⇒ 例文 2
(ただし、稀に「~する必要はない」という意味になることもあります ⇒ 例文

Il y a

  • Il y a ~ は英語の There is ~ と同じで、「(そこには)~がある」「~が存在する」という意味です。
    英語だと、複数のものがくると There are ~ となりますが、フランス語は複数のものがきても Il y a ~ です。なぜでしょうか。少し英語と比較してみましょう。

  There is a book on the table. (机の上には一冊の本があります)

英語の there は「そこには」という意味の副詞で、本来なら文の後ろのほうに置かれるべきなのに、文頭に来たことによって、それに釣られて動詞 is が前に出て、倒置になっていると思われます。倒置でなくすと、

  A book is there on the table.

となるでしょう。「on the table」はフランス語文法で言うところの「場所を表わす状況補語」なので、カッコに入れると、英語では S + V の第 1 文型となります。
このように、もともと There is ~ は倒置で、「~」の部分が主語であるため、主語が複数になれば当然、動詞は複数形の are になるわけです。

この文、フランス語だと次のようになります。

  Il y a un livre sur la table. (机の上には一冊の本があります)

「sur ~(~の上に)」は前置詞で、「sur la table」で「机の上に」。「livre (本)」は男性名詞で、不定冠詞の un がついています。「a」は avoir の現在(3人称単数)ですが、過去分詞とセットではないので、助動詞ではなく、「持っている」という本動詞として使っています。他動詞なので「~を」という直接目的(OD)が必要です。この OD が「un livre (一冊の本)」です。「y」はいわゆる「中性代名詞」で、ここでは英語の there (そこに)と同じ意味です。そうすると、この文は逐語訳すると、

  彼はそこに一冊の本を持っている。テーブルの上に。」

となります。
文の要素で分けると、「Il」が主語(S)、「a」が動詞(V)、「un livre」が直接目的(OD)で、第3文型です。動詞は主語に合わせて活用するため、OD のところに複数のものが来ても、動詞の形は変わりません。

  • ところで、「彼」とは誰でしょうか?
    もともと Il y a という表現は、典型的な「ガリシスム」の例としてよく挙げられます。ガリシスム(gallicisme)とは「フランス語特有の語法」という意味ですが、この「ガリ (galli)」とは「ガリア」のことで、ラテン語を話すローマ人が攻めてくる前にケルト民族が住んでいた地域を指します(ほぼフランスに相当)。つまりガリシスムとは、ラテン語が普及する以前のケルト民族の言葉の名残りである可能性が高いといえます。この「彼」も、自然崇拝の多神教だったケルト信仰における「精霊」のようなものではないかと、ついつい想像したくなります。
  • 疑問文になると、

  Y a-t-il ~ ? (~はありますか?)

となります。この t は、倒置にして疑問文を作る時に「動詞の3人称単数の語尾が e か a で終わり、次に代名詞 il, elle, on がくる時は、動詞と代名詞の間に -t- を入れる」という規則により、発音上の理由から入れるもので、t 自体には何の意味もありません。
「a」は avoir の現在(3人称単数)で、「il」は代名詞ですから、この規則が問題なく当てはまります。

  • 過去形で一番よく使うのは、半過去と複合過去です。

  Il y avait ~ (~があった)
  Il y a eu ~ (~があった)

「avait」は avoir の半過去(3人称単数)。「a eu」は「a」が助動詞 avoir の現在(3人称単数)で、「eu」が本動詞 avoir の過去分詞、あわせて avoir + p.p. で複合過去です。訳では違いは出せませんので、使い方の違いは「直説法の8時制」のページの説明を参照してください。

  Il peut y avoir ~ (~がありうる)
  Il doit y avoir ~ (~があるに違いない)

という表現も、よく使われます。「peut」は pouvoir の現在(3人称単数)、「doit」は devoir の現在(3人称単数)です。

Il s'agit de

 (1) 「(それは)~に関することだ」、「~が問題だ」

  • agit の不定詞の形は agir です。「agir」は単独で使用すると自動詞で「行動する」という意味で、その名詞の形が「action (行動)」です。しかし、それがなぜ「Il s'agit de ~」で「それは~に関することだ」という意味になるのかは、ちょっと説明が困難です(de 以下が意味上の主語で、Il が形式主語だということは言えます)。熟語として覚えるしかありません。
  • 「Il s'agit de」はフランス語特有の表現であるため、感じを摑むのに少し苦労するかもしれません。
    昔、漢文の素養のあるフランス文学出身の石川淳という小説家が、「事は~に係る」という表現を随筆などでよく使っていましたが、おそらくこの「Il s'agit de ~」の訳として使っている気がします。かなり苦し紛れの名訳だと思いますが、それほどまでに訳しにくい言葉だともいえます。
  • ただ、わりと軽く使う場合も多く、ほとんど

  C'est ~ (それは~だ)

と変わらない意味になることもありますので、困ったら「C'est ~」で置き換えられないか、考えてみてください。

  • なお、接続詞 quand... (「...なときは」)〔英語の when〕がついた

  quand il s'agit de ~ (~に関するときには、~に関して言うと)

は、英語の次の表現に対応しているようです。

  when it comes to ~ (~に関して言えば)

 (2) 「~することが重要だ

「Il s'agit de ~」の「~」の部分に不定詞がくると、多くの場合「~することが重要だ」という意味になります。

後出の名詞を指す仮主語の il

さきほどの「de または que 以下を指す仮主語の il 」は、英語でもよく使われるので馴染み深いと思いますが、それとは別に、「後出の名詞を指す仮主語の il 」というのが存在します。
(以下は初級の人はパスしてください。普通は文法的な説明抜きで、一部の動詞で使われる決まりきった用法として丸暗記させられることが多いはずです。)

 1. なぜこの構文が使われるか

通常、自動詞で使われます。自動詞だと、後ろに直接目的も間接目的も来ませんから、主語のほうが長くなる場合が多く、「頭でっかち」になりがちです。それでは格好悪いので(「頭」は小さいほうがスマートに感じられる)、倒置にしたくなるわけですが、倒置をする場合に、もともと主語があった場所に形式的に il でも残しておこう、という感覚で、この構文が使われているのだと思われます。

 2. 自動詞で使われる場合が多い

実際には、以下のような自動詞でよくこの構文が使われます。

  Il reste ~. (~が残る)   ⇒ 例文
  Il manque ~. (~が欠けている)
  Il arrive ~. (~が到着する、~が起こる)
  Il vient ~. (~がやって来る)
  Il existe ~. (~が存在する)
  Il est ~. (~がある = Il y a ~ )  ⇒ 例文

これらは基本的にすべて自動詞で、順に rester (残る)、manquer (欠けている)、arriver (到着する、起こる)、venir (来る)、exister (存在する)、être の 3人称単数の形です。
Il が仮主語で、意味上の主語は動詞の後ろの「~」の部分にくる名詞です。
「~」の部分に女性名詞や複数の名詞がきても変化せず、il のままです。

最後の Il est ~ の場合の être は、第 2 文型をとる繋合動詞(~である)ではなく、第 1 文型をとる自動詞として(「ある、存在する」という強い意味で)使っており、この場合の
Il est ~ は Il y a ~ と同じ意味になります。

自動詞だと直接目的を伴わないため、「~」の部分が直接目的だと誤解される恐れはありません。その意味からも、この構文は自動詞でよく使われます。
他動詞でこの構文を取ることもありますが、その場合は「~」が直接目的だと誤解されることのないよう、受動態または再帰代名詞を伴った形で使われます。

 3. 「彼は(それは)」との見分け方

上の例の Il が「非人称」ではなく「彼は」(または前に出てきた男性単数の名詞を指して「それは」)という意味になることもあります。具体的には、

  Il reste (彼は残る)
  Il manque (彼が欠けている)
  Il arrive (彼が到着する)
  Il vient (彼がやって来る)
  Il existe (それが存在する)
  Il est ~ (彼は〔それは〕~である)

この場合(最後の「Il est ~」を除く)、後ろに言葉が来るとすれば、状況補語がきます。状況補語は、典型的には、前に前置詞や接続詞などがつきます。
最後の Il est ~ は、「~」の部分には属詞がきます。属詞は、形容詞または原則として無冠詞の名詞がきます。
これに対して、非人称の Il の場合は、「~」の部分には(前置詞などがつかずに、原則として冠詞がついた)名詞(または名詞相当の語句)がくるため、比較的容易に見分けがつきます。

動作主の表し方

このページで取り上げた表現(「後出の名詞を指す仮主語の il 」を除く)で Il が「彼」という意味になることはありません(前に出てきた男性名詞を指すこともありません)。
そのため、「Il faut」の項目で述べたように、非人称の表現では「誰が(誰に、誰にとって)」という「動作主」が曖昧になります。
これをはっきりさせたい場合は、原則として、動詞の直前に代名詞の間接目的を置きます。例えば、

     Il est impossible de ~ (~することは不可能だ)
  → Il m’est impossible de ~ (私には~することは不可能だ)
  → Il lui est impossible de ~ (彼〔彼女〕には~することは不可能だ)

     Il faut ~ (~する必要がある)
  → Il me faut ~ (私には~する必要がある)
  → Il lui faut ~ (彼〔彼女〕には~する必要がある)

     Il reste dix euros. (10 ユーロ残っている)
  → Il me reste dix euros. (私には 10 ユーロ残っている)
  → Il lui reste dix euros. (彼〔彼女〕には 10 ユーロ残っている)

ただし、間接目的の代わりに前置詞 pour を使う場合もあります。

     Il est impossible pour moi de ~ (私にとって~することは不可能だ)



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