フランス語の筆記体
フランス語の筆記体
今では綺麗な筆記体を書く人は少なくなり、ブロック体のような字を書くことが多いと思いますが、場合によっては万年筆を使って流麗な筆記体で書くこともあります。
このページの図版は、主に個人的に集めた 100 年ほど前の手紙・葉書から抜粋したものです。当時は小学校の義務教育で徹底して筆記体の練習をさせられたらしく、教養のない人でも(綴りを間違えながらでも)字だけはみな流れるような美しい字を書いています。
現在でもフランス人の手書きの文字は読みにくくて困ることがありますが、伝統的な筆記体の書き方の知識があると、何かと役に立ちます。
A B C 順の筆記体の表なら参考書などにも載っていますが、実際には 1つの字につき 1つの書き方を知っているだけでは対応できないケースも出てきます。皆が皆、フランスの小学校の教科書で習うような字を書くとは限りません。
以下では、筆記体が達筆すぎて読めずに苦労した(今でも大いに苦労している)個人的な体験をもとに、「どう書くべきか」というよりも、むしろ「どう読むべきか」という視点から、知識がないと判読しにくいものを中心に取り上げました。
このページの図版・項目は、今後追加・差し替える可能性があります。
大文字 A の筆記体は 2 通り書き方があるようです。一つは、ブロック体の A を一筆でつなげて書く場合。
左下から V をさかさまにした鋭い山を書き、そのまま反時計まわりに丸めて次につなげます。
Ardennes(アルデンヌ、地方名)
Avril(4月)
Ami(友人)
こうした A はエッフェル塔を連想してしまいます。
もう一つは、英語と同じように小文字の a を大きくしたように書く場合。
Adrienne(アドリエンヌ、女の名)
B は基本的には英語と同じですが、最後で次につなげるところで、独特な癖が出ることがあります。
Bois(森)
上に巻いてから次につなげています。
大文字 R に似ていると思われるかもしれませんが、R がこのような巻き方をすることはないので、両者を区別する一つの判断の目安となります。
場合によっては、大文字 B は数字の 13 と見分けがつきにくい場合もあります。
以下の例は、ボールペンで書かれた最近のものです。
Bonjour(こんにちは)
もっと癖のある書き方だと、
Bonne(よい)
あるいは
Bien(よく)
ポップな感じのものだと、
同上
Beaujolais(ボジョレ [ワインのラベルから] )
重要なのは「大文字 B は上に巻いて次につなげる」というイメージです。
小文字 b をブロック体風に書いて次につなげる場合にも、この特徴が現れることがあります。
bonne(よい [女性形] )
もう一つ、小文字 b で特徴的なことがあります。
日本の感覚だと、b の筆記体の最後は、真ん中で丸めて左の線につけ、右に伸びることを期待してしまいますが...
baisers(キス)
...このように十分に丸めずに(本体にくっつけずに)下に向かって書くこともあります。
慣れないと liaiser かと思ってしまいますが、それにしては i の点がありません。
bonjour(こんにちは)
こちらは丸めたまま、次につなげていません。
大文字 C は上の部分を巻いてから書き始めます。
Caroline(キャロリーヌ、女の名)
Chère(親愛なる)
Correspondance(文通、通信)
このように、下も丸めることもあります。
小文字は普通に d と書きますが、ひと昔前までは、みなギリシア語の「デルタ」の小文字 δ に近いような感じで書いていました。
de(前置詞)
同上
demain mardi(明日の火曜)
dire(言う)
さらに装飾的に線を大きく伸ばして左に巻くこともあります。
de(前置詞)
一見すると P かと思ってしまうほどです。
昔はこの書き方が最も一般的でした(例:ラ・マルセイエーズの作者の自筆原稿を参照)。
また、書き終わりを左側ではなく右側に曲げることもあります。
chaud(暑い)
現在では日本や英語で書くときと同様に、普通の d のように書くのが一般的となっており、昔の書き方はほとんど見かけなくなりました。
しかし、まったく見なくなったわけではありません。たとえば、
de(~の)
以上とは別に、普通の d を「丸」と「棒」に分け、離して書く書き方もときどき見かけます。丸を書いてから棒を書きます。
donner(与える)
de même(同様に)
現代のボールペンで書いたものでも、
dont(関係代名詞)
d'un(~の。英語の of a に相当)
大文字の E は、あたかも C を上下に 2 つつなげるようにして、装飾的に丸めて書きます。
En(前置詞)
Epernay(エペルネー、地名)
真ん中は巻かずに、くびれさせて書くこともあります。
Ecoles(学校、複数形)
もう少し略した書き方だと、
Et(そして)
なんとなく & という記号を連想してしまいます(もともと「&」は e と t を合わせてできた記号なので、当然なのかもしれません)。
大文字 F はブロック体と同じ順序で 3 画で書きます。
Fabre(ファーブル、姓)
この例では、
1. 上の横線は、左下で巻きながら書き始め、最後は右上で巻く
2. 縦線は、大きく倒し、最後を丸める
3. 下の短い横線は、最後を下に撥ねる
というようにして、丁寧に書かれています。
同様に、
France(フランス)
ただし、書き順は、先に縦線から書き始め、大きく旋回させながらつなげて上の横棒を誇張ぎみに書き、最後に下の短い横線を入れることもあります。
こうすると2画になります。
同上
France の場合は、このように下の短い横線と次の r とをつなげて書くことがよくあります。
小文字 f はいくつか書き方があります。
fer(鉄)
これは日本で書く f と似てわかりやすい例ですが、必ずしもこう書くわけではありません。
よく見かけるのは、縦線を下まで書いたあと、左上に線を伸ばして、縦線を横切ってつなげていく書き方です。
fait(faire の3人称単数)
il faut(~しなければならない)
afin de(~するために)
現代風の書き方でも、このように左からつなげるのをよく見かけます。
たとえば、
votre femme(奥様)
effet(効果)
différence(相違。アクサン テギュは省略しています)
なかには、下で止める(一旦筆を上げる)こともあります。
façon(やり方)
現代のボールペンのものでも、
future(未来の [女性形] )
次の例では、縦線を下ろしたあと、そのまま次の字につなげています。
famille(家族)
このように、f の縦線を書いたあとに次の文字につなげる方法はいろいろです。
大文字 G は装飾的です。
Gers(ジェール県)
Grenoble(グルノーブル、地名)
Glun(グラン、地名)
大文字の H は、ブロック体だと 3 画(左の縦→横→右の縦)ですが、その書き順を維持したまま、つなげて一筆で書こうとすると...
Heureux(幸せな)
出だしで「溜め」を作ってから書き始めます。
なんとなく漢字の「龍」の草書体にも似ています。
Haute-Garonne(オート=ガロンヌ県)
Hélène(エレーヌ、女の名)
Henri(アンリ、男の名)
このように、最後に中間に小さな縦の線を入れることもあります。
- ...これは個人的な推測ですが、この最後に入れる小さな線は、次の大文字 I の項目で取り上げる Il との混同を避けるために入れることに決めたのではないかという気がします。線を入れると、たしかに Il との区別は容易になりますが、一筆書きという点では劣ります(いったん筆を上げ、あとから線を追加しなければならないので)。
何人かのフランス人に聞いてみたところ、この小さな縦の線は「入れる」という人と「入れない」という人がほぼ半々に分かれました。
なお、このページではわかりやすい例として人名も取り上げましたが、自分の名は自己流の特殊な書き方をする傾向があるので、書き手の自分の名は除外しています。
小文字 h は日本とは異なる場合があります。
日本だと、h の最後は右に払いながらスムーズに次に続けていきますが...
cher(親愛なる)
左に巻き込んで止めることもあります。
同上
これは左に巻き込んで小さく丸めながら、次につなげています。
heureuse(幸せな、女性形)
これも同様です。
souhaits(願い)
これは右につなげていますが、いったん下で切れています。
(s と t についてはあとで取り上げます)
大文字 I はワンクッションおく感じで書き始めます。
Il(代名詞)。
同上
Il という並びだと、たまたま大文字 H と似た感じになります。
しかし、前後の文脈から、あまり迷うことはありません。
Il n'est pas(それは... ではない)
Inférieure(下側の、下流の)
同上
Isère(イゼール県)
大文字 J は、基本的には大文字 I と同じで、もっと下まで(通常のアルファベットの下限のラインよりも下まで)伸ばす点が異なります。
おそらく英語の授業で習った大文字 J の筆記体とは異なるのではないでしょうか。
Janvier(1月)
Je serais(私は... でしょう)
今風のポップな字体でも、
Je(私は)
また、もう少し微妙な位置から「溜め」をつけて書く人もいます。
Je(私は)
Japon(日本)
小文字 j は、最近の傾向だと思いますが、次のような書き方を比較的よく見かけます。
Ci-joint(同封の)
j を下に下ろしたところで曲線でカーブさせずに、鋭角的に、ほとんど撥ねるようにして次につなげています。
Si je (もし私が)
なお、j の書き始めに短い横棒をつけるのはこの人の癖で、あまり一般的ではないかもしれません。
もともとフランス語では「カ行」の音は c で表すことが多く、k というアルファベット自体、伝統的なフランス語の単語にはあまり含まれていないので、k の筆記体もそれほど目にする機会はありません。
しかし、外来語や外国の地名・人名を書く場合には出てきます。
以下の 3 つの例は、ボールペンによる最近の例です。
Kamakura(鎌倉、地名)
同上
同上
人によって k の細かい部分(右下で巻くあたり)でばらつきがあるのは、あまり k の筆記体を書き慣れていないからではないかという気がします。
Kamakura の書き出しの大文字 K は、3 つの例のいずれもブロック体で書かれています。おそらく、大文字 K の筆記体をどう書いたらいいのか、とっさには思い浮かばなかったのではないかという気さえします。
かく言う筆者も、知識ではだいたい知っていても、大文字 K の筆記体を実際に見たことはほとんどありません。もともと K で始まるフランス語の固有名詞はごく少数だからです。手元の資料をあさっても、大文字 K の筆記体は、なかなか見つかりません。
大文字 L は最初に「助走」をつけ、全体として大きく Z を書くつもりで、折り返すたびにくるくる巻きながら流れるように書きます。
Le(定冠詞)
Les(定冠詞)
Louise(ルイーズ、女の名)
Le(定冠詞)
この最後の字は、20世紀初頭の無名の人の私信からの抜粋ですが、中世(活字の発明以前)の写本で使われる「ブラックレター」を連想してしまいます。
19世紀以降の本でも、章の初めの 1 文字だけを飾り文字にすることがありますが、それにも似ています。
これは万年筆(正確には万年筆の元になった鵞ペンなどの「つけペン」の類い)を使って書かれたものですが、これとまったく同じようにボールペンを使って書こうとすると、(ボールペンの先端の小さなボールは球形なので、ボールペンをどちらに傾けても)文字の太さがすべて同じになってしまうため、何の文字だかわからなくなってしまいます。
つまり、これは微妙な傾け方や押しつけ方によって太さ・細さを加減できる万年筆ならではの書き方だといえます。
小文字 l は、だいたい日本と同じように書きますが、右上に装飾的要素を加える場合もあります(ただし少数派)。
Paul(ポール、男の名)。PauP ではありません。
famille(家族)
1つめの l は普通ですが、2つめの l は右上に装飾がついています。
上に挙げた例は、中世の写本で見かける書体に似ており、現在ではやや特殊な例かもしれませんが、しかしふつうに書く場合であっても、一筆で書く l の前半=右側(つまり左下から上にもってくる部分)はいわば「つけ足し」であり、メインとなるのは後半=左側(つまり上で方向転換してから右下に下ろしてくる部分)であるという意識が強いようです。
つまり、小文字 l の筆記体は左右均等ではなく、左側を強く書くという意識があるように思います。
今風の字体でも...
soleil de la(~の太陽)
Madame(マダム、既婚女性への敬称)
大文字 M 一番左側の縦線は、かなり倒して、高い位置から書き始めることが多いようです。
同上。
このように M の右端を小さく丸めた形をよく見かけます。
Meadame ではありません。
同上
Ma(私の)。 Mea ではありません。
Militaire(軍隊の)。Moilitaire ではありません。
Marie(マリー、女の名)
このように、左側だけ丸めることもあります。
Madame
これは M の両端を丸めて書いた例です。
最近よく見かけるのは、
Merci(ありがとう)
もっとへこませた例だと、
同上
逆に、へこみをつけない例だと、
同上
Mr(Monsieur の略 [ただし M. と略すのが正しいとされている] )
大文字 N は普通は次のように書きます。
Nice(ニース、地名)
Nous(私たち)
書き順は、左下から一筆でジグザグに書きます。
これとは別に、左側を直線で書き、右側を膨らませた曲線にする書き方もあります(どちらかというと少数派)。
Nation(民族、国)
小文字 n を大きくしたような感じです。
次の例では、右上で「溜め」を作っています。
Noël(クリスマス)
この系統の書き方をもう少し簡略化すると、
Naturellement(当然)
さらに簡略化すると、
Nous(私たち)
小文字 n は上を丸くせず、右上を尖らせて書くのがフランス流の書き方です。
その結果、u と区別がつきにくく感じることがあります。
nous faisons(私たちは... をする)
この faisons の n は、nous の u とそっくりです。
Lucien(リュシアン、男の名)
一見すると Lucieu かと思ってしまいます。
Antonin(アントナン、男の名)
一見すると Antouiu かと思ってしまいます。
最近のボールペンで書かれた女の子のかわいらしい字体のものでも、
A bientôt(それではまた)
A bieutôt ではありません。
なお、単語の末尾の n は、最後を右に払わず、下または左下に落として書く人が結構います。
bien(よく)
pèlerin(巡礼者)
大文字 P は 2 画で書くのが基本です。
ブロック体の P の書き順と同じように、最初に縦線を(斜めに)下ろしてから、上半分の冠(かんむり)のような部分を左から時計まわりに書きます。
Poulin(プーラン、姓)
Pontoise(ポントワーズ、地名)
Paris(パリ)
次の例は、手書きのものではなく、印刷物ですが、
Peugeot(プジョー)
フランスの自動車メーカー、プジョーの昔のロゴです(筆記体をデフォルメしたデザイン)。
以上を見てわかるように、2 画目の「冠」は、書き始めの左側のふくらみが大きく、それに比べると右側で丸める部分が小さくなることも多いようです。
なお、次のように 1 画で続けて書くこともあります。
Paris(パリ)
最近のボールペンで雑に書きなぐられたものでも、
Pléiade(プレイヤッド、文学叢書名)
小文字 p は、日本で書く場合とは異なり、左の縦線を高くまで伸ばすことが多いようです。
petite(小さな)
prochaine(次の)
pense(考える)
parents(両親)
papa(パパ、父さん)
un peu(少し)
f と似ている気もします。
parfaite(完璧な)
près(近くに)
もちろん個人差もあります。
最近のボールペン書きのものだと、
paiement(支払い)
plaisir(喜び)
このように、だいぶ簡略化して、下に伸びる棒だけ書くこともあります。
もともと、下まで伸びるのは f, j, p, q などに限られるので、簡略化してもわかります。
小文字 q は、日本の数字の 9 のように下でぴたっと止めるか、または次の字に続けて書く場合は直線でつなげます。
que(接続詞、関係代名詞)
同上
同上
qui(接続詞、関係代名詞)
quand(...なときに)
magnigique(すばらしい)
英語のように最後を丸めて次の字につなげることは、絶対にありません。
(もちろん実例は見当たらないので、間違った例を自分で書きました)
大文字 R はやや独特です。左の縦線を引いたあと、右側は左の縦線にはくっつけずに、途中で腰のあたりで微妙に線をくびれさせて書くことがあるからです。
(ただし、くっつけて書くこともあります)
René(ルネ、男の名)
Rambuteau(ランビュトー、パリの通りの名)
Rue(~通り)。
Reg.(Régiment、連隊〔=軍隊の単位〕の略)
B. du R.(Bouches-du-Rhône、ブーシュ=デュ=ローヌ県の略)
こうした微妙な感じは、万年筆でないとうまく出せないかもしれません。
ボールペンとは違って、万年筆だと傾け方や押しつけ方によって線の太さ・細さを変えることができるからです。
どうも筆記体というのは万年筆でないと十分に美しくは書けない気がします。
日本の行書や草書が毛筆でないとうまく書けないのと同じかもしれません。
西欧の万年筆は、おそらく日本の毛筆に相当するといえるでしょう。
西欧における筆記体の衰退(簡略化)は、万年筆をあまり使わなくなったことと無関係ではないはずです。
小文字 r の筆記体は、基本的には英語と同じで、小さな富士山のようなイメージですが、必ずしも左右対照になるとは限りません。
前の字からつなげてくる場合は、左下から始まるので左右対照に近くなりますが、単語の冒頭に r がくる場合は、かなり上の位置(八合目あたり)から書き始める人が(昔も今も)ある程度の割合で存在します。
réception, recevez(...受取り、お受け取りください)
また、ふつうは左下から始めて頂上に達すると、いったん筆を止め、少し方向を転換して右下に線をつなげて「くびれ」をつけるのが普通ですが、急いで書く場合などは「くびれ」を省略することがあります。この場合、r は単に尖った山のようになります。
proverbes(ことわざ、複数形)
富士山というよりも槍ヶ岳のようです。
大文字 S は書き出し部分で大きく「溜め」を作ります。
イメージとしては、アンドの記号(&)を左右さかさまにした感じです。
Souvenirs(思い出)
Service(サービス)
sœur(妹)
Seine(セーヌ、地名)
Selle(セル、地名)
Sarthe(サルト県、地名)
小文字 s も難しい場合があります。
sincères(誠実な)
最後の s はすぐに s だとわかりますが、最初の s は膨らみが足りず、左右の辺の間が非常に狭くなっていて、慣れないと読みにくいところです。
こうした、つぶれたような s もよく見かけます。
santé(健康)
Corse(コルシカ島)
もう一つ、s の筆記体で特徴的なことがあります。
s の筆記体は、左下から書き始め、右上で鋭角で折り返し、曲線で再び左下に線を持ってきますが、日本で英語で習う筆記体の s の場合は、ここでまた鋭く折り返して、これまで書いた線に重ならないよう、その線の下側に(あまり曲線にせずに)次の字につなげていきますが、フランスの場合は、この再び左下に持ってきたところで、小さく輪を書くように上に丸めて(その結果、これまで書いた線と交差して)次につなげていく書き方をする人が多いようです。
上で挙げた例では、sincères(誠実な)や santé(健康)の s も、よく見ると上に丸めながら折り返していますが、たとえば他の例でも、
souhaite(希望する [1または3人称単数] )
もう少し癖のある書き方だと、
sont(être の3人称複数)
大文字 T は独特で、知らないと読めません。
しかし、「 T の横線と縦線をつなげて一筆で書いてください」と言われたら、こうとしか書けないかもしれません。
特徴は、縦線の最後を大きく右に巻くことです。
Tout(すべて)
Travailles(働きなさい、勉強しなさい。ただし末尾 s は本来は不要)
Toujours(つねに)
次のものは1945年頃の印刷物です。
Télégramme(電報)
同様に、1900年頃の印刷物で、少し図案化されていますが、
Trocadéro(トロカデロ、パリの地名)
また、少し変わったところでは、
Toulouse(トゥールーズ、地名)
Thérèse(テレーズ、女の名)
C の大文字かと間違えそうです。
また、真ん中に横線を入れることもあったようです(おそらく C との混同を避けるため)。
Tante(叔母)。手紙の冒頭で「叔母様」。
Terrasson(テラソン、地名)
Toi(君、おまえ)
小文字 t も少し厄介です。
左右均等に横線を引かずに、右側だけに横棒をつけることが多いからです。
これは、とくに単語の末尾で顕著です。
et(そして)
fort(強く)
このように、低めの位置に横棒をつけることが多いのも特徴です。
était(être の半過去3人称単数)
最近のボールペンのものでも...
tout(すべて)
Cordialement(敬具)
Amicalement,(親しみを込めて [友人間での手紙の結びの文句] )
(ただし A はブロック体、n は急いで書いたらしく不完全)
souhaitant(望みながら [souhaiter の現在分詞] )
Bulletin de Santé(病状報告書)
以上のように右側だけに横棒をつけることが多いのは、スピードを重視すると、このように「一筆書き」にして次の字に移ったほうが効率的だからです。
次の字に続ける場合は...
Châtillon(シャティヨン、地名)
(この字を書いた人はアクサン・シルコンフレクスを抜かしています)
...このように、縦の線を下ろしてから、そのまま左上で小さく反時計まわりに丸を書き、次に続けることが多いようです。
大文字の A にも少し似ています。
Pontoise(ポントワーズ、地名)
d'autre(他の)
tous(すべて、皆)
これなどは上と同じ書き方ですが、もっと崩すとわかりにくくなってきます。
同上
同上
同上
このように、小文字の s と区別がつきにくくなる場合もあります。
同上
このように、横棒を抜かすこともあります。
現代のボールペン書きのものでも、
Postal(郵便の)
ちなみに、この人(教養のある年配の男性です)は、単語の末尾以外の t はすべて横棒を抜かして書きます。
大文字 V は、装飾的に「溜め」をつけてから書き始めます。
Vve(未亡人)。Veuve の略。
同上。2つ目の v の下に書かれている短い二重線は、略したしるしとしてつける場合があります(この二重線は必須ではなく、昔のほうがつける場合が多かったようですが、今でも手書きで書く場合にはつける人もいます)。
Vendredi(金曜)
Victoire(勝利)
Ville(町)
大文字の V は山羊(やぎ)の角のように見えるときがあります。
最近のポップな字体だと、
Votre(あなたの)
小文字 v は、v の左右の間隔を狭く、下をすぼめて書くことが多いようです。
ギリシア文字の「ガンマ」の小文字に似ている気もします。
vous(あなた)
同上
Voici(これが~です)
慣れないと r かと思ってしまうかもしれません。
visite(訪問)
小文字 x は昔は独特な書き方をしていました。
Braux(ブロー、地名)
同上
x の左半分を s のように書いてから右半分を c のように書いています。
vœux(願い、祝意)
なんとなくシャネル(ファッションブランド)のマークのようです。
ceux(指示代名詞)
Bordeaux(ボルドー、地名)
Excuse-moi(許して)
aux(à と les の縮約形)
こうした書き方は現在ではほとんど見かけなくなり、日本と同じように書くようになっています。
しかし、昔風の書き方も見かけることもあります。たとえば、
texte(テクスト、文章)
Meilleurs Vœux 2016(2016年が良い年になりますように)
手持ちの手書きのものをひっくり返しても Z の大文字は見つかりませんでした。実際問題として大文字の Z を書いたり読んだりする機会は、ほとんどないはずです。もともと Z で始まる固有名詞(地名と人名)はごく少数しか存在しないからです。
その他、英語の筆記体とほとんど同じで、特に知識がなくても読めると思われるもの(または適当なものが見つからなかったもの)は、以上では取り上げていません。しかし、適当なものが見つかったら、追加するかもしれません。
1
1 は単なる縦の棒一本ではなく、いわば「鍵」(助走)をつけて書くのが基本です。
153
118
10
このように、助走部分は直線ではなく、十分に反(そ)らせた曲線で書きます。
ただし、単なる棒線にすることもあります。
この 1914 の 2 つ目の 1 は単なる棒線になっています。
特に、たくさん数字を書くときは助走部分を省略することも多いようです。
2
2 の下の辺は、直線ではなく下に膨らませた曲線にすることが多いようです。
このように、下に膨らませて書く人が現在でもかなりの割合を占めます。
ただし、日本と同じように直線で書く人もいます。
4
4 は日本のように(つまり一旦筆を上げて 2 画で)書かずに、一筆でジグザグに書くことが多いようです。
43
1904
22 + 22 = 44 と計算しています。
4 を 2 画で書いた場合でも、基本的な 4 の形は似ています。次の例は最近のボールペンのものですが、
42130
ちなみに、フランスから筆者のもとに届く郵便物で、手書きで宛名が書いてある場合、郵便番号に含まれる 4 の数字は、ざっと半数以上が一筆のジグザグ書きという印象です。
もし郵便番号ではなく番地に 4 が含まれていたとしたら、日本の郵便配達の人が正しく届けてくれるかどうか、少々不安になります。
5
数字の 5 は、とくに昔は独特な書き方をしました。
15
一筆書きをしようとして、アルファベットの S のようになっています。
1915
なんだかオタマジャクシのような、頼りない書き方をしています。
15 jours(15日間=2週間)
ほとんどメダカが泳いでいるようです。
ただし、日本と同じように、わかりやすく 5 と書く場合もあります。
次の例では両者が混在しています。
54. 95 + 15 = 69 95 と計算しています。
こうした「オタマジャクシ」ないし「メダカ」風の 5 は、現在では見かけなくなりました。昔の筆記体の知識のない現代のフランス人から見ると 9 ではないかと思う人が多いようです。
現在では日本と同じように 5 と書くことも多いようですが、しかし一筆書きで書こうとする風潮は、あいかわらず根強いようで、その場合は大文字の S のようになります。
253
同上
同上
5 € 15
Port 1 € 40
6 € 55
5ユーロ15+送料1ユーロ40=6ユーロ55と計算しています。
le 22. 8 2015
(le の後ろは日付記入欄を意味します。西暦の前半2桁が印刷されており、後半2桁を手書きで記入するようになっています。日、月、年の順で書くので「2015年8月22日」の意味)
この書き方の 5 は、ブロック体の S とほとんど見分けがつきません。
また、日本風の 5 との中間のような形で、まず上の横棒を左から右に書いてから、そのまま筆を上げずに S のように書く書き方もよく見かけます。
253
7
1と区別するために、長い縦の棒を書いたあとで、最後に横線(または斜めの線)を入れるのが基本です。
7
75
以上のように、昔は日本で 7 を書くときのように書き出し部分に短い縦線を入れ、7 の上部がいわば「冠」になるように書いていましたが、最近は、この書き出しの短い縦線は省略することが多くなっています。
例えば、
247
同上
同上
同上
25870
このように、7 は昔は 3 画でしたが、今は 2 画で書くのが一般的です。
ちなみに、5 桁の数字はフランスの郵便番号です。
8
8 は日本と同じように書く人もいますが、そうとも限りません(以下、最近のボールペンの例)。
無限の記号 ∞ を縦にしたような形であることは同じですが、さて、どこが日本とは違うでしょうか?
168
83570
...書き始める位置が違います。
日本の場合は右上から書き始めますが、左上から書き始めています。
...という知識がないと、戸惑う場合もあります。
34 680
これが結構見かけます。
9
9 は、最初に小さな丸を書いたあと、日本のように直線を下ろして止めるのではなく、曲線で左に流す(払う)ことが多いようです。
7 Oct. 09(09年10月7日)
409
29
9 octobre(10月9日)
このように、アルファベットの g のように見えるときもあります。
こうしてみると、フランス人の数字の書き方には昔からだいぶ癖があることがわかります。
さて、ここで突然ですが、クイズです。
次のものは、最近筆者が受け取った、ボールペンで書かれた 9 桁の数字で、あまり綺麗とはいえませんが、典型的なフランス人風の書き方がされています。
さて、何と書かれているでしょうか?
正解は
2 9 8 8 9 4 1 3 5
最後になりましたが、できあがった「形」で見て判断しようとすると、ペン習字のような模範的な字体以外は判読するのが難しくなるので、書くときの筆の「勢い」、つまり筆遣い・筆運びに注目し、どこで曲がって、どこで力を入れて、次にどの方向に向かうのかなどを考えながら、追体験するような(つまり書きながら読むような)つもりで読むと、かなり癖のある字体でも読めるようになる気がします。それでも難しい場合は、その人の癖だと思ってあきらめ、その人が書いた定型表現などの読みやすい部分に含まれる字体と見比べながら、癖を分析するつもりで「解読」するしかありません。
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